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それって適法ですか?

「転勤命令」が効力をもつための3つの条件

[ 榊 裕葵<さかき・ゆうき>(特定社会保険労務士)]

春は人事異動の季節です。月刊「企業実務」2016年4月号では、労使間でトラブルになりがちな「転勤(転居を伴う配置転換・勤務地の変更)」命令の有効性や、労使それぞれの考え方の違いを踏まえた善後策についてQ&A形式で解説しています。

転勤命令が効力をもつための3つの条件

法的効力をもつ「転勤」に関する基本ルール

 まず、基本的なルールを押さえておきましょう。転勤命令が法的な効力をもつには、以下に掲げた3つの条件を満たす必要があります。

第1の条件…転勤について「労使間の合意」があること
第2の条件…転勤に「業務上の必要性」があること
第3の条件…転勤を命じられた「従業員の私生活上の不利益の程度が業務上の必要性を上回らない」こと

 第1の条件である「労使間の合意」は、転勤のたびに合意が必要ということではなく、入社時に雇用契約を結ぶ際、包括的に合意をしていれば足りるとされています。

 具体的には、従業員が会社の転勤命令に従う旨の誓約書を提出している場合や、その従業員に適用される就業規則に転勤に関する規定がある場合には、転勤についての合意が成立していると判断されます。

 また、正社員として採用された従業員の場合には、前期のような誓約書や就業規則が存在しなかったとしても、会社が支店や出張所をもち、多くの従業員が転勤をしている慣行がある場合や、雇用契約時に勤務地を限定するなどの取り決めがなされていない場合には、黙示的に転勤に関する合意が成立していると考えて差し支えありません。

 逆に、転勤を命じる従業員との間に勤務地を限定する特約があったり、入社時に予見可能性がなかった場所への転勤を命じるような場合には、会社から一方的に転勤を命じることはできず、労働条件の変更として、転勤について個別の同意を得る必要があります。

合理的理由のない転勤命令は無効となるリスクが

 次に、第2の条件「業務上の必要性」ですが、判例では、業務上必要不可欠な場合のみならず、人事の活性化のための定期的異動や能力開発のための転勤なども含め、幅広く認められています。

 しかし、業務上の必要性がまったくないにも関わらず、不当な動機・目的をもってなされた転勤命令は権利の濫用となります。具体的には、従業員を退職に導く意図でなされた転勤命令や会社批判の中心人物に対する転勤命令は、権利の濫用となります。

 また、複数の転勤候補者がいる場合には「なぜ、その従業員が転勤対象者として選ばれたか」ということについて合理的な理由づけが必要となる場合もあります。

 そして、第3の条件「従業員の私生活上の不利益の程度」については、通勤時間の増加、単身赴任の負担、育児・介護への影響など、様々な事由があげられます。

 転勤命令の有効性に関して労使間で争う場合、こうした不利益を従業員が甘受したとしてもなお、転勤命令の業務上の必要性が上回るのか、という比較考量で、裁判所はその有効性を判断します。

 関連する判例を整理すると、業務上の必要性および従業員の私生活上の不利益の程度をそれぞれ3段階に分け、どちらのほうがより程度が高いのかにより、転勤命令の有効性を判断していることがわかります。

■判例にみる「転勤命令」の有効性判断の基準(例)
程度 業務上の必要性の程度 従業員の私生活上の不利益の程度
合理的な業務命令+人選の適正さ
例:労働力の適正配置、人事の活性化、従業員の能力開発
通常甘受すべき程度
(一般に予想される損害・苦痛の範囲)
例:通勤時間の増加、引っ越し、単身赴任、子女の転校
合理的な業務命令+雇用確保の意味
例:事業所閉鎖、整理解雇回避
通常甘受すべき程度を超える
例:既婚・有子の女性労働者の転勤
余人をもって代えがたい転勤
(ほかの人では代わりになれない業務)
例:高度な専門性、ノウハウの保有
通常甘受すべき程度を著しく超える
例:老親の介護、本人や子女が難病

 たとえば、病気の老親や子女を抱えていて、本人以外に介護・看護が難しく、転院などで主治医が変わることも望ましくないという従業員に対し、「定期的な異動」といった業務上の必要性が弱い理由による転勤は、命令としての有効性はないといえるでしょう。

「転勤」にまつわるトラブルへの対処法

 逆に、合理的な業務命令であるにも関わらず、通勤時間の増加や引っ越しの拒否などを理由に転勤に応じない場合は、従業員本人とよく話し合うことが大切です。従業員が抱く不安や疑念などを払拭するためにも、個々の事情にも配慮を示しつつ、転勤が必要である理由や、会社が本人に期待する役割などをしっかり伝えて理解を求めましょう。

 単なるワガママなどから転勤に応じないという従業員に対しては、社内秩序の維持という観点からも、懲戒解雇等の処分を検討せざるを得ませんが、あくまでそれは最後の手段です。

 以上をふまえ、月刊「企業実務」2016年4月号では、転勤でトラブルとなりがちなケースについて、Q&A形式で解説しています。

Q1 転勤にかかる費用について、会社はどこまで負担するべきでしょうか?
Q2 転勤を命じた従業員から、キャンセルするマイホームの手付金(頭金)の支払いを求められたのですが…
Q3 関連会社に出向させた従業員を転勤させる場合、何か制約はありますか?
Q4 転勤を命じた従業員から、親の介護を理由に転勤を拒否されました。この場合、どのように対応すべきでしょうか?
Q5 女性従業員が共働きや育児を理由に転勤を拒否した場合、どうすればよいでしょうか?
Q6 「3年を限度に本社に戻す」と告げたものの、状況が変わった場合、転勤期間を延長することはできるのでしょうか?
Q7 勤務地限定で採用した従業員がいますが、その営業所をたたむことになり、受け入れ先が遠方の本社しかありません。どうすればよいでしょうか?

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「転勤」にまつわるトラブルQ&A(月刊「企業実務」2016年4月号)
著者 : 榊 裕葵<さかき・ゆうき>(特定社会保険労務士) あおいヒューマンリソースコンサルティング代表。上場企業にて海外事業質経営企画室に勤務後、2011年に独立。各種セミナー講師としても活躍している。
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