1.「年俸制では時間外手当を考慮しなくても良い」?…
✕ 年俸制でも時間外手当は支給しなければならない!
時間外手当の支給を免れるのは、管理監督者以上の地位の者であるか、役員となります。多くの経営者が勘違いしているポイントです。
また、雇用契約書などに「時間外手当分を含む」との記載があったとしても、その計算根拠や計算結果などが明確でない限り、無効とされる例が多いのです。仮に管理職であったとしても、時間外手当を支給しなくてもいいのかどうかは、管理監督者扱いする範囲の適正さの問題と絡み、非常に微妙な判断になります。
年俸制であれば時間外手当はいらないとの認識は、あきらかに間違いです。
2.「年俸制では賞与月に決まった額の賞与を支給する」?…
△ 現状ではそうだが納得できる制度かどうか?
賞与とは本来、業績アップに貢献した社員に“努力を誉めて与える”ものです。定期的に決まった額を支給することに果たして意味があるのでしょうか。
リーマンショックの後にも、中小企業の多くは賞与額を減額せざるを得ない状況に陥り「そのかわり業績が回復したらもっと払うから」と社員にお願いをしたのです。しかし、このような状況下にあっても、年俸契約者だけは一定の賞与が支給されるのでは、誰も納得できる制度とは言えません。
賞与の額を確約などしてはいけないのです。
3.「標準報酬月額は年額を16で割った額になる」?…
✕ 支給の確定している額を合算して算定するため、年額を12で割った額になる!
年俸額の一部を賞与として賞与月に支給する場合は、社会保険の標準報酬月額から除外できるというのは迷信です。社会保険制度上では名称が何であれ、支給の確定しているものは賞与とは言わず、年間に支給する賞与はすべて合算して標準報酬月額を算定することになります。
つまり年額を12で割った額になり、保険料は高めになります。
4.「時間外手当の計算根拠も年額を16で割った額になる」?…
✕ 同じく年額を12で割った額になる!
これも勘違いです。労働基準法でも通達が出ていますが、支給の確定した額は賞与とはならず月給に加算して計算根拠としますから、月給者よりも時間外割増賃金の単価が大幅に高くなるという理不尽な扱いが生じてしまいます。
これもやはり年額を12で割った額になります。
5.「年俸制なら賃金の減額がしやすい」?…
✕ 年俸制でも大幅な減額は難しい!
賃金の減額は、賃金形態を問わず非常に難しい面があります。年俸制であるとしても、能力が落ちた、成果が上がらない、パフォーマンスが低いなどの理由での減額は10%以内に留めるべきです。
年俸該当者であれば大胆に減額ができるというのは、まやかしに過ぎません。実際には、大きな減俸には「生活権を脅かすほどの労働条件の不利益変更」という概念が付いて回り、年俸該当者といえども例外ではありません。
6.「年俸制の者を解雇する場合、16で割った額をもとに平均賃金の30日分の解雇予告手当を用意する」?…
✕ 経営側からの一方的な解雇では、年俸提示額の残額を支給!
解雇を実施するにあたり、解雇予告手当が30日分で妥当か否かについては、そもそも事例ごとに判断されるべき問題ですが、年俸契約では違った判定をされることが普通です。
年俸ではどこかで年額を提示しているわけですから、経営側からの一方的な解雇では、年俸提示額の残額を支給するというのが普通です。「1,000万円の年俸を約束した者に100万円の支給実績しかない時点で解雇を通告するのであれば、残額の900万円を支払え」という賃金補償の問題が生じるのです。