どちらが正しい? 自治体とNPO法人の契約書に印紙はいるか、いらないか
「この場合はどちらが正しいんでしょうか?」
筆者の印紙税セミナーを受講されていた方が、講義のあとで質問にみえました。手には2通の契約書を持っています。
その方はNPO法人の総務担当者で、持っているのは2つの市とそれぞれ介護関連の業務請負契約を結んだ際に送られてきた契約書でした。書かれている内容はほぼ同じで、請負に関する契約書(第2号文書)に該当します。
記載された契約金額が1万円以上 100 万円以下であれば、200 円の印紙が必要です。
ところが、A市が送ってきた契約書には印紙が貼ってありますが、B市から送られてきたものに印紙はありません。なるほど、どちらが正しいのか、受講者の方が首を捻るのももっともです。
結論から言うと、NPO法人などの公益財団法人と地方公共団体が交わす請負に関する契約書(第2号文書)については、
・地方公共団体が作成し、公益財団法人が保管する契約書には印紙は不要です。
質問のケースでは、印紙を貼っていないB市のほうが正しいことになります。
なお、仮に契約書の内容が、継続的取引の基本となる契約書(第7号文書)に該当する場合は、公益財団法人が作成する契約書についても印紙を貼る必要はありません。
ベテラン課長が「公益法人との契約に印紙はいらない」と思っていた訳は?
本連載の第1回(中途半端な印紙税の知識が間違った思い込みを生む!)で、ある会社の経理課長さんが「公益法人との契約に印紙はいらない」と勘違いしていたという話を紹介しました。
実際には、民間企業が作成した契約書は、相手が「国、地方公共団体または別表第2に掲げる者」であっても印紙を貼る必要があります。
一方で印紙税法においては、「国、地方公共団体または別表第2に掲げる者が作成した文書」は非課税文書とされています。しかし公益法人だからといって、すべてが「国、地方公共団体または別表第2に掲げる者」に該当するわけではありません。
それにしてもなぜ、その課長さんは「公益法人との契約に印紙はいらない」と思い込んでいたのでしょうか?
これは筆者の想像ですが、もしかしたらその会社は以前、公益法人と継続的取引の基本となる契約書(第7号文書)を交わしたことがあったのかも知れません。
第7号文書というのは、売買取引基本契約書や特約店契約書などのように、特定の相手と、継続的に生じる取引の基本となる契約書のことです。
この文書に該当するのは、以下の5つの要件のすべてを満たすものに限られます。
- 営業者間取引であること
- 売買、売買の委託、運送、運送取扱いまたは請負に関するもの
- 2以上の取引を行うもの
- 目的物の種類、取扱数量、単価、支払方法、損害賠償または再販売価格のいずれか1つ以上の事項を定めるもの
- 契約期間が3か月以内かつ更新の定めのないものではないこと(契約期間の定めのあるものに限る)
1.でいう「営業者」に、利益配当が法律で制限されている公益法人や、旧商法以外の業法によって業務内容が定められている税理士や弁護士、整体師などは含まれません。つまり、公益法人が相手のときは第7号文書とならないので、印紙を貼る必要がないのです。
これは弁護士や税理士、医療法人でも同じです。
すなわち公益法人や弁護士との契約だから印紙がいらないのではなく、営業者以外との取引なので第7号文書に該当せず、契約書に印紙を貼る必要がない、というのが正しい理解です。
【本書の紹介】
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A5判並製256ページ 頒価2,500円(税別)
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