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会社を襲うメンタルトラブルを防ぐ法 第2回

パワハラで社員がうつ病に? 企業が、社員のうつ病についての責任を問われるのはどんな場合か?

[ 福﨑剛志<ふくざき・たけし>(弁護士)]

もしも社員がうつ病になったら? 様々なケースに就業規則などでしっかり対応できるという会社はそれほど多くないでしょう。ひとつ間違えれば大きなトラブルに発展しかねない、メンタル不調者への対応のポイントを企業法務の専門家が解説します。

会社を襲うメンタルトラブルを防ぐ法

社員が上司のパワハラでうつ病になったとして休業損害、治療費、および慰謝料の支払いを求めてきました。会社は、社員の支払いの求めに応じなければならないでしょうか。

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社員のうつ病について、業務起因性(労災認定)が認められる場合には、企業は、社員がうつ病に罹患したことについて、損害賠償義務を負う可能性が非常に高くなります。逆に、業務起因性が認められない場合には、社員のうつ病と業務との間には因果関係がなかったとされ、企業は、社員がうつ病に罹患したことについて、損害賠償責任を問われることはないでしょう。


損害賠償責任の有無は「業務起因性」によって判断される

 社員が上司のパワハラでうつ病になったと主張してきた場合、企業はどのように対応すべきでしょうか? それにはまず、社員のうつ病について、どのような要件があると企業側に責任が生じるのかを理解しておくことが重要です。

 社員のうつ病について、企業の損害賠償責任が問われた多くの裁判例では、以下の要件に従って、企業の賠償責任の有無を判断しています。

企業の損害賠償責任が問われた多くの裁判例では、その要件に従って、企業の賠償責任の有無を判断

 すなわち、まず、その社員のうつ病が、私生活上の問題や個体側の要因に基づくものではなく、企業の業務に起因して生じたものであること(業務起因性)が要件となります。

 そして、この業務起因性の判断は、労災認定の要件となる業務起因性の判断とほぼ同じ判断基準になると考えられています。

 実際に、企業の損害賠償責任の有無が争われた多くの裁判例は、厚生労働省が発表している「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」に具体的な事実を当てはめて、業務起因性の有無を判断しています。

 仮に①の業務起因性が肯定される場合、②企業側の帰責性、③損害の発生、④企業側の帰責性と損害との間の因果関係は大半のケースで肯定されています。

労災認定の結果によって企業の取るべき対応は分かれる

 うつ病などで社員が企業に損害賠償を求めてくる場合、それと並行して労災を申請しているケースが多いようです。

 したがって、企業側の対応としては、社員のうつ病について、既に労災認定がなされているケースでは、企業側の賠償責任についても肯定される可能性が高いことを前提に早期に解決することが賢明です。

 逆に、労災認定で業務起因性が否定される場合には、企業側は基本的に損害賠償責任を負わないであろうことを前提に対応できると言えるでしょう。

 また、労災に関する判断がなされていない場合には、先に紹介した「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」に合わせて、当該社員のうつ病について、業務起因性が認められるか否かを判断すべきということになります。

明らかなパワハラが認められる際は早期解決を目指すことが賢明

 例えば、パワハラに関しては、労災認定基準では、以下のように強度が分類されています。

パワハラに関する労災認定基準

 労災認定の判断基準においては、多くのケースでは、精神的負荷の程度が「強」となる場合、その他に私生活上の要因や個体側の要因がない場合には、業務起因性が肯定されます。

 したがって、社内調査によって、上司のパワハラによってうつ病に罹患したと主張する社員について、上記「強」と判断されるような事実があったか否かを判断し、仮に「強」と判断されるような事実が認定できる場合には、企業は、当該社員がうつ病に罹患したことについて損害賠償責任が肯定されることを前提に早期解決するのが得策と言えるでしょう。

▼連載「会社を襲うメンタルトラブルを防ぐ法」
著者 : 福﨑剛志<ふくざき・たけし>(弁護士) 香川県出身、広島大学法学部卒業、広島大学社会科学研究科修了。第二東京弁護士会・労務社会保険法研究会。税務と労働を得意分野としており、中小企業の事業承継・人事制度の構築支援などを専門分野として活躍している。

【第二東京弁護士会労務・社会保険法研究会】中小企業が抱える労働関係のトラブルや社会保険関連事務の処理問題について、労務問題に詳しい弁護士と社会保険労務士が有機的に連携し、企業経営に資するソリューションを提供するため、幅広い活動を行っている。
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