血も涙もある税の「宥恕(ゆうじょ)規定」
平成28年熊本地震により、大きな被害が出ています。
東日本大震災の時には、「東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律(東日本大震災特例法)」が交付・施行されましたが、こうした特例法だけでなく、税法にはもともと災害等を念頭に置いた宥恕(ゆうじょ)規定といわれる、納税者を助ける規定が設けられています。
宥恕とは、寛大な心で許すこと。
税法は課税の公正、負担の公平を考えて厳格に規定され、規定を悪用(租税回避)できないように考えられています。そんな厳しい税実務ですが、災害等のやむを得ない事情があって税法に則った手続き等ができなかったときは、あえて緩やかに運用する(申告期限等が守れないことを許す)ことで、より公平性を確保しようとする規定です。
今回の平成28年熊本地震に対する対応は、この宥恕規定で行います。
国税通則法(国税に関する基本的事項および共通的事項について定めている法律)には、次のような規定があります。
第11条 国税庁長官、国税不服審判所長、国税局長、税務署長又は税関長は、災害その他やむを得ない理由により、国税に関する法律に基づく申告、申請、請求、届出その他書類の提出、納付又は徴収に関する期限までにこれらの行為をすることができないと認めるときは、政令(※国税通則法施行令第3条)で定めるところにより、その理由のやんだ日から二月以内に限り、当該期限を延長することができる。
災害その他やむを得ない理由の例として
② 火災その他の人為的災害で自己の責任によらないものに起因する災害
③ 災害に準ずるような状況又は当該事業者の責めに帰することができない状況にある事態
があります。
実際の適用は税務署長の判断によりますので、適用を検討する方は、必ず所轄税務署にご確認ください。
なお、平成28年4月22日、国税庁は国税通則法施行令の定めるところにより、「熊本県における国税に関する申告・納付等の期限の延長措置」について官報に掲載し公告しました。
第3条 国税庁長官は、都道府県の全部又は一部にわたり災害その他やむを得ない理由により、法第11条(災害等による期限の延長)に規定する期限までに同条に規定する行為をすることができないと認める場合には、地域及び期日を指定して当該期限を延長するものとする。
※熊本県に納税地を有する納税者については、平成28年4月14日以後に到来する申告・納付等の期限が、すべての税目について、自動的に延長されます。
2 国税庁長官、国税不服審判所長、国税局長、税務署長又は税関長は、災害その他やむを得ない理由により、法第11条に規定する期限までに同条に規定する行為をすることができないと認める場合には、前項の規定の適用がある場合を除き、当該行為をすべき者の申請により、期日を指定して当該期限を延長するものとする。
※熊本県以外の地域に納税地を有する納税者は、所轄税務署長等から承認を受けることにより、申告・納付等の期限を延長することができます。
ただし、その場合は次項に定める申請書を提出しなければなりません。
3 前項の申請は、法第11条に規定する理由がやんだ後相当の期間内に、その理由を記載した書面でしなければならない。
税法は、実際の社会で起こりうる様々な事象に対応できるように考えられています。
国は、東日本大震災のような広域災害には特例法を制定し対応しますが、特例法がなくても、甚大な被害が発生した場合は、国税庁長官が申告期限等を延長します。
国税庁長官が申告期限等を延長しない場合は、自ら承認申請をする必要があります。
災害時等には「宥恕規定」の適用を検討
宥恕されるのは、申告をする者の重傷病その他の自己の責めに帰さないやむを得ない事実も含まれるので、該当するかどうかは事前に所轄税務署に確認しましょう。
承認申請する場合の宥恕規定の実際の適用は所轄税務署長の判断によりますので、あきらめずに、必ず相談することをお勧めします。
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