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今週の話材「噴火 その弐」

桜島噴火より怖い!九州の旧石器人や縄文人を死滅させた巨大カルデラ噴火

[ 古川愛哲<ふるかわ・あいてつ>(フリーライター)]

口永良部島や桜島で活発な火山活動が続いている。気になるのが、豊富な温泉に恵まれる九州地方の水面下に横たわる複数の巨大なカルデラの存在だ。四国以西の旧石器人や縄文人を滅ぼした巨大カルデラ噴火とは…。

桜島噴火より怖い!九州の旧石器人や縄文人を死滅させた巨大カルデラ噴火

桜島だけじゃない!鹿児島湾自体がじつは巨大な噴火口

 桜島の噴火というと、大正3年(1914)規模の噴火にばかり目が奪われがちだ。たしかに、この時の大噴火で流出した溶岩は、島を大隅半島と陸続きにしたほどで、鹿児島市民を恐慌に陥れた。
 鹿児島から脱出する避難民や、鹿児島が全滅するとの流言が流れたほどである。

 それ以来、桜島は噴煙を上げ続け、昭和30年(1955)からでも 5,000 回以上の噴火を繰り返している。そのため桜島の火山噴火予知は、かなり確実なものとなっている。

 ところで桜島は、巨大な噴火口の中の突出した部分に過ぎない。桜島を南端とする鹿児島湾の北半分は巨大な噴火口で、通称「姶良(あいら)カルデラ」と呼ばれる。

 桜島は、巨大噴火口「姶良カルデラ」の外輪山の一部が海面から突き出したものに過ぎないのである。

 水面下の巨大噴火口、姶良カルデラは、東西 23 キロ、南北 17 キロにわたる。噴火すれば、広範な地域に壊滅的な被害をもたらす「破局的噴火」と呼ばれる戦慄するべき火山だが、その噴火予知は進んでいない。

 この巨大な水面下の噴火口(姶良カルデラ)が発見されたのは、昭和 18 年(1943)なので、戦時下の情報統制もあって、発見者の地質学者・松本唯一の名とともに世間には知られなかったせいもある。

四国以西の旧石器人を死滅させた「姶良カルデラ」の大噴火

 姶良カルデラの噴火は凄まじい。氷河期の終わりを告げるように、約 2 万 9,000 年前に大噴火した。

 当初は桜島付近の噴火で、火砕流と軽石が大隅半島に降り積もると、活動を休止した。その数か月後である。現在の桜島以北の鹿児島湾全体を噴火口とする巨大な爆発的な噴火を起した。

 これが姶良カルデラの大噴火である。

 吹き上げられた噴煙柱は 3 万メートルを超えて、やがて崩れると摂氏 800 度近い灼熱の火砕流を時速 100 キロで、半径 70 キロ以上を埋めつくした。川内原発は 50 キロ圏内にある。まさに破局的噴火である。

 今日、高さ 100 メートルもの火砕流の地盤もあり、これら火砕流と火山灰の堆積地盤を通称シラス台地と呼ぶ。

 巨大な火砕流を吐き出す姶良カルデラから吹き飛ばされた岩石は、直径2メートルの岩塊を含めて最大30メートルの地層(霧島市牧之原)を残している。巨岩が火砕流とともに襲ってくる光景は、想像するだけでも鳥肌が立つ。

 空高く吹き上げられた火山灰は、偏西風に乗り、東北地方まで 2,500 キロも日本列島全体に降り積もったのである。

 火砕流圏外の南九州では3メートルの厚さで堆積しており、高知県宿毛市で 2 メートル、鳥取県大山付近は 80 センチ、京都市で 40 センチ、東京で 1 センチ、東北ではミリ単位で地層に残っている。

 徳之島ではシラス地層の下に旧石器時代の遺物が発掘されているので、九州や中国地方の旧石器時代人は絶滅したと思われる。

姶良噴火による火山灰は東北南部にまで飛散

 これら地層の厚さは、姶良火山の噴火から 2 万 9,000 年後の発掘調査の数字なので、その後の堆積物で地層は圧縮されている。それを計算に入れると姶良カルデラ噴火当時の火山灰(シラス)は、約 10 倍の厚さで地表を覆ったと見られる。

 すなわち姶良カルデラ噴火時は、南九州 30 メートル、高知県宿毛 20 メートル、鳥取県大山付近 8 メートル、京都 4 メートル、東京 10 センチ、東北数センチとなる。

 ことの重大性は、九州から関西まで全滅はもとより、関東地方や東北南部の人々も致命的な健康被害を受けたであろうことだ。

 火山灰の組成はガラスなので、空気とともに肺に入ると無数のガラス繊維が肺に突き刺さる。火山灰を吸い込むと盛んに咳をするのは、気道や肺を鋭利なガラス片が刺激することによるもので、アスベストと同じく珪肺となり、肺気腫や心不全を引き起こす。

 飲料水からも、体内をガラス片が駆けめぐる。旧石器時代の関東人も、咳き込み悶死したと思われる。

 現代なら、3センチの降灰で自動車は坂を登れない。東京に10センチの降灰があれば、自動車はもとより電車も停止、ジェットエンジンも動かない。住宅の屋根も壊れる。送電線はショートし、電気も止まる。

 東京の都市機能は麻痺するのである。

鬼界カルデラ火山灰の下から見つかった縄文人の遺跡

 口永部島の噴火を忘れた人はいないと思う。まだ屋久島で避難生活を強いられている。この口永部島のほぼ北、20 キロのところに薩摩硫黄島がある。

 地図を見ると西から薩摩硫黄島、竹島と並んでいるが、それらの島は「鬼界カルデラ」の北側外輪山で、屋久島付近の海底まで広がる。

 鬼界カルデラの北端、薩摩硫黄島は2年前(2013年)に噴火した。大事には至らなかったが、鬼界カルデラは南北 17 キロ、東西 20 キロあるので、これが噴火すれば「破局的噴火」となる。

 鬼界カルデラの破局的噴火は、約 7,300 年前に生じた。時代は既に縄文時代中期で、最も温暖化した時代である。

 噴煙柱は高度3万メートルまで立ち昇り、それが崩壊した火砕流は、四方の海面を走り、100 キロ離れた薩摩半島にまで達した。むろん、西の種子島、屋久島なども火砕流に焼き尽くされた。

 火山灰は南九州一帯の地層に 60 センチ、大分県で 50 センチの厚さで残っているが、通称「アカホヤ」と呼ばれる。鬼界カルデラ火山灰は、数メートルも降り積もって九州や四国の縄文人を死滅させた。

 といのも比較的近年、アカホヤの地層の下から縄文時代の大集落が発見されて、縄文文化再評価のひとつとなった。

 その集落は舟作の工具(世界最古)や燻製施設と大量の炉、独自の貝殼紋の土器などをともなっていた。この高度な海洋民族を思わせる縄文人を全滅させたことがわかる。
 その後、1,000 年ほど九州は無人の地だったようで、新たな縄文文化は朝鮮半島からの渡来人だったと考えられている。

次に破局的噴火が起こるのはいつ?

 ともあれ水面下の巨大カルデラは、ひとつでも噴火すれば「破局的噴火」となり、大気圏を漂う噴煙によって亜硫酸ガスの濃度が上がり、地球の酸素を3分の1減らすともいわれる。

 鹿児島湾はすべて巨大カルデラに海水が入ったものである。桜島以北の姶良カルデラ、その南は阿多カルデラ、同湾入口から西の池田湖にかけて阿多南カルデラ、と3つの海底カルデラで鹿児島湾は成り立っている。

 破局的噴火は、約1万年に1度とみられているが、もはや、いつ破局的噴火があっても不思議ではない、と専門家は指摘する。

 そもそも日本列島そのものが、火山噴火の原因となる無数の「マグマ溜り」の上にある。多くの火山は各地の大学の研究予算でまかなわれているが、破局的カルデラ噴火については、その予測も対処も研究されていない。

 ひとたび破局的噴火が起これば、我が国が“存立危機”事態に陥ることは間違いない。巨大噴火への国家規模の監視・研究センターを設立し、その成果を世界で共有することこそ、火山列島日本の「海外貢献」だと思うのは筆者だけだろうか。

▼「今週の話材」
著者 : 古川愛哲<ふるかわ・あいてつ>(フリーライター) 1949年、神奈川県に生まれる。日本大学芸術学部映画学科で映画理論を専攻。放送作家を経て、『やじうま大百科』(角川文庫)で雑学家に。「万年書生」と称し、東西の歴史や民俗学をはじめとする人文科学から科学技術史まで、幅広い好奇心を持ちながら「人間とは何か」を追求。著書に『「散歩学」のすすめ』(中公新書クラレ)、『江戸の歴史は大正時代にねじ曲げられた サムライと庶民365日の真実』(講談社プラスα新書)などがある。
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