自分でとった映像をネットに投稿するとき、どんなことに注意が必要ですか?
- 質問者
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前回は、他の人が撮影した写真を掲載する場合に気をつけなければいけない点について解説してもらいました(ネット上で素敵な写真を見つけました。自分のサイトに転載してもいい?)が、映像を投稿したいと思ったときに注意しなければいけない点を教えてください。
具体的には、
- 文化祭で生徒が開催するコンサートを撮影した映像
- プロサッカー選手数名と子供たちが参加するチャリティーサッカーの試合を撮影した映像
これらの映像を動画投稿サイトに投稿しようと思っているのですが、どうでしょうか。学生たちや子供たちの了解はとっています。
それでは、著作権法の視点から考えてみましょう。
- 弁護士
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まず、楽曲は、音楽の著作物(著作権法10条1項2号)として著作権法上保護の対象になります。そして、公衆(不特定または多数)に向けて楽曲を演奏する場合は、「演奏」(著作権法22条)にあたりますので、原則として著作権者の許諾が必要ということになります。
(上演権及び演奏権)
第22条 著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、又は演奏する権利を専有する。これが原則ということになりますが、著作権法38条1項によると、①営利を目的とせず、②聴衆から料金を受け取らず、③演奏した人に報酬が支払われない場合には、著作権者の許諾を得なくても、演奏をすることはできるものとされています。
- 質問者
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そうすると、文化祭ではお客さんからお金はとっていませんし、学生ももちろん報酬なんてもらっていませんので、著作権者の許諾がなくてもコンサートで演奏すること自体は問題ないということですね。
- 弁護士
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営利目的もないといってよいですから、そのように考えてよいと思います。
- 質問者
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それなら、コンサートの様子を撮影した映像を投稿することも同じように問題ないのでしょうか。
そう考えたいところですが、許諾が不要とされるのは、「演奏」等に限られているのです。
- 弁護士
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映像(動画)をアップロードする行為は、禁止の対象になり得る利用方法(第2回 ブログで他人の著作物を引用したり、「まとめサイト」を作ることに問題はない?参照)のうち、「複製」(著作権法21条)及び「公衆送信」(同法23条)に該当します。
先ほどの同法38条1項の規定によって許諾が不要とされるのは、「演奏」等に限られており、「複製」や「公衆送信」については対象外とされていますので、映像をアップロードする場合には適用されないということになります。 - 質問者
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そうすると、この場合は原則どおり、著作権者の許諾が必要ということですね。
- 弁護士
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そうなります。
なお、演奏する楽曲がJASRAC(日本音楽著作権協会)に管理されている場合で、JASRACと許諾契約を結んでいる動画投稿サイトに投稿する場合であれば、別途著作権者の許諾を得ることなく、投稿することができることもあります。 - 質問者
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これまで何度も検討してきた「引用」に該当する可能性はありませんか?
- 弁護士
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もちろん検討の余地はありますが、ご質問のような場合に「引用」と認められるケースはあまり想定できないように思います。
- 質問者
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たしかに、その映像を公開すること自体が目的なので、「引用」というのは難しそうですね…。
では、サッカーの試合を撮影した映像を投稿する場合は、何が問題になってくるのでしょうか。
- 質問者
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コンサートの場合とは違い、スポーツの試合は著作物とは違うように感じられます。
- 弁護士
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そうですね。ご想像のとおり、スポーツの試合それ自体は、「創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)とはいえないことが通常ですから、多くの場合は著作物にあたらないと考えてよいでしょう。
そうすると、サッカーの試合を撮影した映像を投稿したとしても、著作権法上は問題ないということになりそうです。 - 質問者
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安心しました!プロの選手が映り込んでいるのでどうなのかと思っていましたが…。
ただし、選手の肖像権との関係で問題になり得る可能性はあります。
- 弁護士
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著作権法上は問題がないとしても、そのあたりは慎重に検討する必要があります(肖像権については、第5回 どんなケースが「肖像権の侵害」に? 具体的に気をつけるべきポイントは?参照)。
また、試合自体に著作権がないとしても、映像に入場曲やプロチームのマスコットキャラクターが録り込まれている場合は、入場曲やマスコットキャラクターについて著作権侵害とならないかを検討する必要もあります。
- 質問者
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そういえば、当日会場にはゆるキャラも遊びに来ていて、映像をよく見てみると、隅っこの方にチラチラと写り込んでいました……。
- 弁護士
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もっとも、そのゆるキャラをメインに撮影していたのではなく、試合を撮影する過程で小さく写り込んでいたということであれば、著作権法30条の2(付随対象著作物の利用)の規定が適用され、撮影行為それ自体も、撮影した映像を投稿する行為も適法とされる可能性が高いでしょう。
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