介護休業は介護“準備”休業制度
介護離職を防ぐには、社内制度を整備するだけでなく、
② 気軽に相談できるしくみを作る
③ 両立できる職場風土を醸成する
などが大切です。
「仕事と介護の両立に関する労働者調査」によれば、介護休業制度を利用して、どんな手助けを行ったかについて聞いたところ、離職者は「排泄や入浴等の身体介護」(53.8%)、「定期的な声かけ(見守り)」(37.4%)に対し、就労者は「入退院の手続き」(46.2%)、「手助け・介護の役割分担やサービス利用等にかかわる調整・手続き」(38.5%)となっています。
就労者は、介護休業を介護の準備に活用している点が離職者との大きな違いです。
たとえば、介護休業が想定する「要介護状態」は、介護保険法の定義とは違い、負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態です。制度を利用できるにも関わらず、知らない人も多いようです。
そこで、入退院の手続きや要介護認定の申請の仕方、介護の心構えなど、介護関連の情報をハンドブックなどにまとめ、配布するとよいでしょう。
また、世代別の「仕事と介護の両立支援セミナー」を実施したり、管理職向けに部下が介護に直面した場合の「対応マニュアル」を配布することなども有効です。
現在は、国・都道府県等で「仕事と介護の両立支援」に関するサイトにおいて、「セミナー資料」「マニュアル」などの情報提供がなされていますので、参考にすると良いでしょう。
・厚生労働省「企業における仕事と介護の両立支援実践マニュアル【事業主向け】」
・東京都「 仕事と介護の両立支援サイト」
相談できる仕組みづくり
実際に介護に直面した場合、事前準備や周辺知識があるかどうかで、対処の仕方も変わってきます。悩んだり、不安になったときに相談できる仕組みがあれば、精神的なストレスも軽減されます。
一般には、直属の上司が相談役を担うことが多いと思いますが、介護の状況は常に変化します。定期的な面談を設けるなど、困っている社員が相談しやすい状況をつくるようにすることが大切です。
可能ならば、人事部などに相談窓口を設置するとよいですが、専門的な相談に応じるなら、福利厚生会社など外部に委託する方法もあります。
最も重要なのは、両立する上での課題整理です。どんなことが不安なのかを洗い出し、
- 会社で対応すべき問題
- 地域の窓口や病院に相談すべき問題
- 親族間で話し合ったほうがよいと思われる問題
などに仕分けしていきます。
「働き方」や「利用できる介護サービス」「親族間の協力」など、状況次第で会社がすべき対応も異なります。
課題を容易に整理できない場合は、会社として支援できる範囲を明確に示すことで、他の条件が検討しやすくなります。
職場風土の醸成
仕事と介護の両立を実現する上で、最も大切でありながら難しいのが「職場の理解」です。
どんな制度を作っても、いくら会社が両立支援を打ち出しても、現場の上司が「他人事」としてとらえ、介護は個々の責任であるかのような言動をとるようでは、社員の意識は変わりません。
また、介護に関わる社員の業務を減らすと、他の社員の負担が増えることがあります。代わりの人員を確保できればよいのですが、現実には難しいケースが多いのが実情です。
そのため、負担をかけられた社員の中には、不満を訴える人が出てくることもあります。結果として、仕事と介護を両立しにくい雰囲気になってしまうのです。
一方で、介護に直面している側にも「介護休業は権利だから当たり前」「自分の大変さを誰も理解してくれない」といった態度をとってしまう人がいます。
こうした事態を避けるためにも、日頃から互いに助け合う職場風土を醸成し、チーム全体で対応できる協力体制を作っておく必要があります。
介護の問題は、誰にでも起こりうることです。困った時は「お互い様」、手助けしてもらった時は「ありがとう」という感謝の気持ちをもつことが大切です。
社員の意識を変えていくには、「ノー残業デー」や「休暇取得促進」などの呼びかけを人事部などが主導して地道に行ったり、ときにはトップ自らが情報発信することが必要です。
あるいは「仕事と介護の両立」「業務の効率化」について勉強会を設けたり、管理職が講師となって社内改革セミナーを開いてみてもよいでしょう。
こうした職場風土の醸成と合わせ、業務の効率化を進めれば、制度の実効性がより高まります。
たとえば、在宅勤務を想定し、電子会議システムやグループウェアの導入などを検討してみる価値はあります。こうした投資は、離職を防ぎたい会社の「本気度」を示すことにもつながります。
なお、育児介護休業法が改正され(平成29年1月1日施行)、休業開始が平成28年8月以降の場合、介護休業給付金が現行の40%から67%に引き上げられる予定です。
特に介護に関する休業等の制度は、活用しづらい点が多くありました。今回の改正を機に、「介護離職ゼロ」に向けて、介護休業等の活用が増えることが期待されます。
※本記事は、月刊「企業実務」(2015年4月号)に掲載した「介護離職を防ぐ職場環境をどのように整えるか」を2016年7月現在の法令に基づき、企業実務オンライン用に再構成したものです。