業務上の職位等を利用して、または業務に関連してハラスメントが行われた場合、行為者(加害者)が会社の従業員であるときには、会社は不法行為責任(使用者責任)を負うことになります。
一方、被害者が会社の従業員である場合は、職場環境配慮義務(労働契約に付随して、健康的で安全で、かつ働きやすい職場環境を提供・維持する義務)を怠ったとして、労働契約上の債務不履行責任を負う場合があります。
昨今では、従業員の自殺が上司のパワーハラスメントによるものとして労災が認定されたケースもあります。こうなると高額な損害賠償が発生することもあります。
パワーハラスメントは企業にとって大きなデメリット
職場でパワーハラスメントが起きた場合、直接の被害者のみならず、就業環境の悪化から職場全体にも様々な影響を与えることになります。
被害者の精神的・肉体的ダメージ
・従業員の心の健康を害する
職場環境の悪化
・職場の雰囲気が悪くなる
・被害者だけでなく、周囲の者の士気も下がる
・職場モラルの低下
会社のリスク
・職場の生産性が低下
・能力が発揮しにくい
・優秀な人材の流出
・パワハラ被害者からの損害賠償リスク
パワーハラスメントを見過ごすことは、会社を法的リスクにさらすだけでなく、職場から活力を奪い、会社の生産性を大きく損なうリスクをもはらんでいます。
パワーハラスメントの定義
パワーハラスメントは英語ではなく、セクシュアルハラスメントに倣ってできた、いわば労務管理上の造語です。
その定義は法的に定められていませんが、厚生労働省の有識者ワーキンググループにおいて「職場のパワーハラスメント」の概念として次の内容が報告されています。
職場のパワーハラスメントの概念
職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為をいう
ここでのポイントは、次の2点です。
●職場内の優位性
上司から部下に対しての行為だけでなく、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して行われるなどの様々な職務上の地位や人間関係の優位性を背景に行われるケースが含まれることです。
●業務の適正な範囲
個人の受け止め方によって不満に感じる指示や注意・指導があっても「業務の適正な範囲」内であればパワーハラスメントには該当しません。
パワーハラスメントとみなされる行為
①身体的な攻撃:暴行・傷害
…殴る、部下の胸倉をつかむ、腕をつかむ
②精神的な攻撃:脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言
…叱るときに机を叩く、大声を出す、「ここから飛び降りろ」「明日から来なくていい」などの言葉
③人間関係からの切り離し:隔離・仲間外し・無視
…特定の1人だけを無視する、特定の1人だけ連絡メールを送らない
④過大な要求:業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害
…使用しない書類の整理をさせる、達成不可能なノルマを与える、同じ失敗に対して執拗に繰り返し叱責する
⑤過少な要求:業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
…特定の1人だけに仕事を与えない、嫌いな部下だけ会議に出席させない、特定の1人にだけ雑用を押しつける
⑥個の侵害:私的なことに過度に立ち入ること
…特定の1人だけを酒に誘う、酒席への強要、休日のゴルフ等への誘い、引っ越しの手伝い