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やる気を育て、人を活かすマネジメント術 第3回

部下がやる気スイッチを入れるとき

[ 疋田 文明<ひきた・ふみあき>(経営ジャーナリスト・元気塾主宰)]

やる気を削ぐのは簡単だ。無視され、人格を否定され、失敗の責任を転嫁されれば、どんな人だってやる気を失う。ならば、やる気を高める方法はどうか? 名経営者たちの手法には、共通してじつにシンプルな真理がある。

やる気を育て、人を活かすマネジメント術 第3回

アイアコッカが実践した「部下の意欲を高める唯一の方法」

 働く人たちが、やる気をなくす要因はどのようなものなのか。人によって違いはあるだろうが、大きくは以下の3つに集約されると思う。

①無視される
 職場において、上司から声をかけられないとかコミュニケーションが取れない状況が続くと、自分の存在が否定されたように思い、徐々にやる気はうせていく。

②人格を否定される
 問題点を指摘し、叱ることはあってもいいが、そのとき、「どんな育ち方してきたんだ」とか「親の顔が見てみたい」といった具合に、人格を否定するような怒り方は、部下のやる気を阻害する。

③組織の問題を個人に転嫁される
 組織上の問題があって仕事がうまくいかなかったとき、その責任を個人に転嫁する上司がけっこう多い。しかし、責任転嫁されたほうはたまったものではない。

 では、やる気を高める要因には何があるのか。

 単純には、やる気を阻害する要因の逆を考えればいい。無視するのではなく、期待し、声をかけることだ。

 創業の頃の松下幸之助は、若い従業員に対して「君ならできると思うから。頼むわな」と、耳にタコができるぐらい語りかけていたと聞く。また、全盛期のフォードを率いたアイアコッカは、「部下の意欲を高める唯一の方法は話しかけること」だといっている。

 20世紀最高の経営者と評価されたウェルチは、「小さな賞賛」が部下のやる気を引き出すと指摘している。

 たとえば、若い営業マンが新規の仕事を5万円とってきたとしよう。「なんだ5万円か」といってしまうのと、「よくあの会社からとってきたな。これからも期待してるよ」といわれるのでは、全く違うということだ。

社員の給料を上げると会社は儲かる!

 無視できないのが、「仕事にふさわしい報酬」だ。

 行動心理学の世界では、意欲を高める要因には、心の満足感を求める「内発的動機」と、金銭や名誉といった外的報酬を求める「外発的動機」があるとされる。
 どちらかといえば、日本人は、「内発的動機」を大事にするという。しかし、だからといって、報酬を無視していいわけではない。

 性善説をとなえた孟子は、

「恒産なくして恒心なし」

 ともいっている。

 「安定した仕事、安定した収入がなくては、心は安定しない」との指摘だが、まさにその通りで、「欲求の5段階説」で知られるマズローの「人間は経済的安定を確保すると、その後は価値ある人生や創造的で生産的な職業生活を求めて努力する」といった考えもある。

 安倍総理は、経済界に、消費を活発にするために給料を上げて欲しいと頼み込んでいる。しかし、そんな理由だけでは、経営者は給料を上げないだろう。

 生活が安定すれば、働く人たちの意欲が高まり、企業の生産性が上がって、利益も出るようになるから、給料を上げるべきなのだ。

 ヘンリー・フォードは、「繁栄分配計画」をとなえて、1914年に、労働時間を9時間から8時間に減らし、日給を2ドル34セントから5ドルに上げたのだが、

「これが最高の経費削減策だった」

 と振り返っている。

 日本では20年もの間、実質所得が増えてこなかった。経済面での安心感を与えないで、「やる気を出せ」「生産性を高めるための知恵をさせ」といっても、出てくるわけはないのだ。

▼連載「やる気を育て、人を活かすマネジメント術」
著者 : 疋田 文明<ひきた・ふみあき>(経営ジャーナリスト・元気塾主宰) 1950年奈良県に生まれる。企業経営者を対象とした各種セミナーの企画・運営会社、新しい経営者像の会(理事長・石山四郎)を経て、1979年に「竹村健一未来経営研究会」を企画設立し事務局長に就任。1986年に独立後はフリーランスのライターとして、企業経営、地域活性化の現場を歩き、取材を重ねる。現在は『元気塾』(経営者を対象)と『実践経営塾』(これから経営を担う人が対象)を主宰し、元気印の企業が増えることを願って活動中。
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