なぜサラリーマンは会社のために全力で働かないのか?
経営者に、「いま抱えておられる課題は」と聞くと、例外なく、「人材育成」との答えが返ってくる。ところが、いま多くの日本企業は、人材育成以前の問題を抱えている。
それは、従業員のやる気のなさだ。
数年前になるが、雑誌『プレジデント』に、日本を含む16か国のサラリーマンを対象に実施した、興味深いアンケート調査の結果が報告されていた。「あなたは大変意欲的に仕事をしていますか」の問いに、「ハイ」と答えた日本のサラリーマンは2%にすぎず、16か国中ダントツの少なさだった。
日本人はシャイだから、自分から「意欲的」と答えないのではないだろうかとの見方もあるだろうが、そうともいえない。第三者の機関が匿名で実施したアンケートだけに、気を使う必要もないのだ。
それだけに、このパーセンテージの低さは気にかかる。
日本のサラリーマンの意欲が殺がれていることを指摘する高塚猛のような経営者もいる。
20歳でアルバイトから日本リクルートの社員に転じた高塚は、創業者の江副浩正の指名で、30歳にして赤字に苦しむ盛岡グランドホテルの再建を任され、1年で黒字に転換させた。
その後は、ダイエーのオーナー中内功に頼まれて、グループの福岡3点セット(福岡ドーム、ホテル、ダイエーホークス)の再建に取り組み、2年で経常ベースで黒字化させた、事業再生で実績を残してきた経営者だ。
晩年は、セクハラ等々の問題を指摘されたが、筆者は、その経営を高く評価しているので、ここに取り上げることをお許し願いたい。
典型的なサラリーマン経営者である高塚に、次のような質問をしたことがある。
「日本のサラリーマンは、持てる能力が10あるとすれば、会社のためにどれぐらい発揮していると思われますか。5割ぐらいは出していますかね」
高塚の答えは、「疋田さんは甘い。2割から3割でしょう。よくて4割ですよ」というものだった。
上司の間違ったマネジメントが部下の“やる気”を殺いでいる!
なぜ、日本のサラリーマンは、これほどまでに意欲が低いのか。
高塚は、会社の制度、本人に問題があるケースもあるが、圧倒的に多いのは、「やる気を阻害する上司の存在」だと指摘していたが、先のアンケートでも同じような結果が出ていた。
管理職のマネジメントの質を問われた質問に、日本のサラリーマンの40%は、「低い、またはとても低い」と答えているのだ。
若い頃には、意欲的だったサラリーマンが、上司の対応の悪さによって、モチベーションを下げていってしまうのだ。しかし、これはなにも日本だけの現象ではないようだ。
経営学の泰斗ドラッカーは、エグゼクティブ対象のセミナーで、参加者に、
「無用の長物と思える部下はいますか」
と、問いかけたところ、大半が手を上げた。ドラッカーが、
「彼らは入社したときから無用の長物だったのですか」
と続けると、誰も手をあげなかったという。
この逸話からも伺えるように、入社当初は、やる気があった社員が、会社で時間を過ごすうちに、活力を失っていくのである。人材育成を考えるのなら、その前段階で、自社の従業員、自分の部下のやる気は阻害されていないかどうかを見きわめることが何より肝要になってくる。
1992年にノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学のベッカー教授は、
「人間には無限の可能性がある。
それだけに、やる気を阻害することは大いなるムダ」
と指摘していたが、「その大いなるムダ」を、企業は知らず知らずの間に抱え込んでいるのが、現実の姿なのではないだろうか。
持続的成長を手にするためには、企業は絶え間なく生産性向上、ムダの排除に取り組まないといけないのだが、最優先すべきは、従業員のやる気を引き出すことなのだ。
- ▼連載「やる気を育て、人を活かすマネジメント術」
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- 第6回 上司は部下を育てないのか、育てられないのか?
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- 第4回 仕事を任せれば、部下は育つか?
- 第3回 部下がやる気スイッチを入れるとき
- 第2回 どこが問題?会社の人事がダメ上司を作る
- 第1回 ダメな上司が部下の“やる気”を殺いでいる!