多くの経営者が同業者との差別化に悩む理由
学習することで、知恵の出せる社員は育つのだが、同業他社の成功事例は、学習の対象としないほうがいい。
経営者は異口同音に、「同業者との差別化が生き残る道」だという。
そういう経営者の会社をみると、多くが、同質の経営に陥って苦しんでいるのだが、その理由は、同業者を学習対象としてきたからだ。
同業の成功事例を研究すればするほど、自分たちがやっていないことをやって顧客の支持を得ていることがわかる。結果、とらわれてしまって、自分たちもそういうことをやらないといけないと考え、同じことをやってしまっている。
同質の競争に陥ればどうなるのか。顧客が選択する基準は、ただひとつ〝価格〟になり、業界あげての価格競争に陥ってしまうのだ。
現実には、後発企業が先発企業に短期間で追いつくために、あえて「創造的模倣」をすることがある。筆者は、「創造的模倣」については否定しないが、それだけでは、永遠に競争優位性は手にできないことを指摘しておく。
「それなら、同業者の成功事例をなぜ研究するのか」と問われれば、筆者は、
「そこがやっていないことをやるため」
「そこ以上のことをやるため」
と答える。
研究した結果、同質の競争に陥って苦しむぐらいなら、異業種に目を向けたほうがいい。なぜなら、異業種からのほうが学べることが多いからだ。
トヨタは小売に学び、ウォルマートは製造業から学んだ
世界に名を馳せる「トヨタ生産システム」の基盤でもある、「後工程が前工程へ、必要なものを必要な量だけ引き取りにいく」という、ジャスト・イン・タイムの最初の頃の呼称をご存じだろうか。
生みの親とされる大野耐一は、昭和20年代後半にアメリカのスーパーマーケットの話を聞いて思い立ったところから、その著書の中に、「スーパーマーケット方式」の名で紹介している。
お客が後工程で、お店を前工程と見立て、後工程のお客が前工程のお店に、必要なときに自ら出向き、必要なものを必要な量だけ買う。お店では、売れた商品を補充する——この姿を見て、ジャスト・イン・タイムの基本形は生まれたというのだ。
逆に、世界一の小売業、ウォルマートは、モノづくりから学んだという。
創業者サム・ウォルトンの本には、
会社を大きくしていく過程で、もっとも勉強になったのは、日本に品質管理の重要性を教えたデミング博士の本だった
と書かれている。
デミング博士がキッカケで生まれたQC活動は、日本のモノづくりの原点ともいっていい。
世界一のモノづくりは、小売業から学び、世界一の小売業はモノづくりから学ぶ――この事実が、異業種から学ぶことの大切さを何よりも証明している。
発想法のひとつに、「類推思考」というのがある。自分たちとは違う世界の事例をヒントにアイデアをだすというものだが、まさに、トヨタ生産方式の「スーパーマーケット方式」はそのいい例だ。
発想のタネは意外なところにある
F1のピットクルーの作業をヒントに、アイデアをだした例が、筆者が知るだけでも3つある。
ひとつは、アメリカの航空会社「SWA」だ。
同社は、乗客を乗せた飛行機が空港に到着してから、乗客・荷物を降ろし、掃除をして、乗客・荷物を積んで再離陸するまでに10分しかかからない。飛行機の稼働率が高まって、格安でも十分利益のでるシステムをつくりあげたのだが、このとき参考にしたのが、F1のピットクルーの作業だった。
2つめは、アメリカのモービル石油のスタンドだ。同社では、スタンド内での車の滞留時間が長く、効率が悪かった。この改善案を考える際に参考にしたのが、F1だった。
いまひとつは、鹿児島の「マキオ」だ。
ここは過疎地で24時間営業の大型店を成功させて話題の会社だが、車検工場ももっている。この車検工場の生産性が同業よりも圧倒的に高いのだが、そのシステムは「F1方式」と呼ばれている。
社員に知恵をださせたいのなら、異業種を研究させるべきなのだ。
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