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やる気を育て、人を活かすマネジメント術 第5回

「俺に任せとけ」はよい上司か?

[ 疋田 文明<ひきた・ふみあき>(経営ジャーナリスト・元気塾主宰)]

部下が仕事で壁にぶつかった時、「俺に任せとけ」と救いの手を差し伸べてくれる上司。頼もしいようで、じつは部下の成長する機会を奪っている。部下は、「次の仕事を任される」ことで、やる気を出し、育つのだ。

やる気を育て、人を活かすマネジメント術 第5回

「自分(上司)なら、5分でやれる!」

 部下は、「次の(少しハードルが高い)仕事を任される」ことで、やる気を出し、育つ。ところが、仕事を任せることのできる上司は少ない。プレイヤーとして優秀だった上司ほど、仕事を部下に任せることができないといってもいい。

 なぜか。

 それは、最初は任せたとしても、部下が成果を出すまでに時間がかかったりすると、「なんだ、お前こんなこともできないのか」といって、部下から仕事を取り上げ、自分でやってしまうからだ。

 一般に、プレイヤーは仕事を実践するに際して必要な知識、情報、スキル等々を頭の中に暗黙知として蓄積している。それだけに、教えるのに時間がかかる。だから、優秀なプレイヤーだった人ほど、「自分でやったほうが早い!」となってしまいがちなのだ。

 著名スポーツ選手をマネジメントするという新しいビジネスモデルを作り上げた、マーク・マコーマックは、その著書『ハーバードでは教えない実践経営学』(日本経済新聞出版社)に次のように書いている。

 自分なら5分でやれる仕事を5時間かけて部下に教えることの意義を考えろ

 この「5時間」を惜しむがために、優秀なプレイヤーほど部下を育てることができない。そればかりか、部下のやる気まで阻害してしまうのだ。

「自分(店長)がいなくても回る店にする」

 以前、外食産業で年商トップ10にはいる会社を取材した際に、その会社のナンバーワン店長にインタビューする機会があった。彼は、「5時間」を惜しまないタイプだった。

 その会社の店長は、あらかじめ決められた目標予算の達成率によって評価され、アルバイトを何人採用するかも委ねられている。彼の場合、目標を手っ取り早く達成するために、自らのマンパワーを最大限に活用した。

 すなわち、アルバイトの数を最小限にし、率先して現場に入って働いた。結果、目標達成率も高く、彼は3店舗の店長を兼務することになった。

 当初は、同じように自らのマンパワーをフルに発揮して利益を出していたのが、時を経ずして、こんな疑問を持つようになったという。

〈店が1つなら、自分が率先して現場に入って目標を達成することも可能だ。3店舗でも利益は出せる。が、これ以上の複数店となると、そうはいかなくなる——〉

 彼は、アルバイトに仕事を覚えてもらい、「自分がいなくても回る店にすることが大事」だと考えるようになり、6割の時間をアルバイトの教育(OJT)に割くようにした。

部下が育つと生産性が高まった!

 アルバイトに社員の仕事を任せられるようになれば、店の人件費はかなり下がる。さらに、教育をすることで、食材のロスも軽減できる。

 そして、アルバイトと共に働きながら、「1秒でも早く食事を提供するためにはどうすればいいか?」についても、一緒に考えたともいう。早いサービスが実現できれば、客の回転率が高まり、生産性はさらによくなる。

 彼は、

「売上を上げるためにどうするかを考えるよりも、アルバイトを教育してレベルアップさせるほうが、ロスが少なくなり、結果として業績も伸びました」

 と振り返っていた。

 アルバイトでも仕事を任せれば育つのだから、正社員ならその成果はいうまでもないだろう。

 自分でやれば5分ですむ仕事を「5時間かけて部下に教える」ことの意義をじっくり考えてみていただきたい。

▼連載「やる気を育て、人を活かすマネジメント術」
著者 : 疋田 文明<ひきた・ふみあき>(経営ジャーナリスト・元気塾主宰) 1950年奈良県に生まれる。企業経営者を対象とした各種セミナーの企画・運営会社、新しい経営者像の会(理事長・石山四郎)を経て、1979年に「竹村健一未来経営研究会」を企画設立し事務局長に就任。1986年に独立後はフリーランスのライターとして、企業経営、地域活性化の現場を歩き、取材を重ねる。現在は『元気塾』(経営者を対象)と『実践経営塾』(これから経営を担う人が対象)を主宰し、元気印の企業が増えることを願って活動中。
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