法律を味方につければ、ビジネスの可能性はもっと広がる
アメリカには「タックスロイヤー」という租税法を専門とする弁護士がいます。日本における弁護士と税理士を合体した税務実務の専門家です。つまり税務と法務に精通した専門家で、彼らは経営者の参謀として企業経営に深く関わっている。
残念ながら、日本ではまだ、弁護士を参謀に加えて経営戦略を立てる、という発想がほとんどありません。そのため、いまの日本では、本物の CFO が育っていないのです。
しかし、弁護士を使って法律を味方にしながら戦略を立てることができれば、ビジネスにおいてこれほど有利なことはないでしょう。
法律を味方にするということは、国家が守ってくれる、「錦の御旗を立てる」ということです。
いまはパソコンやインターネットなどを使って、個人が小さな資本で新しく事業を始めることも可能な時代です。なかにはFacebookやTwitterに匹敵するような可能性を秘めた、すばらしいアイデアを持つ起業家もいるかもしれません。
そうした事業の芽を単なるアイデアで終わらせないためには、彼らの“夢”を支え、彼らの夢に錦の御旗を立てる“実務家”が必要です。
事業の最初の段階から、財務と法務と税務の専門家が経営者を支えるような仕組みがあれば、ビジネスはもっと自由に、もっと面白くなるはずです。
経営者の“夢”を“法律”で支える実務家を育てる
――大企業だけではなく、小さな会社や個人事業主も「法律を味方につける」という発想を持つべきだということですね。
小さな会社がビジネスにおいて強者と対峙するために、また強者が強者であり続けるためにも、国家・社会が錦の御旗と考えている”法律”を味方につけることは、大きな武器になるはずです。
そんな経営者のために、弁護士にはできることがたくさんあります。
もちろん、非弁提携の問題など乗り越えなければならない壁はあります。今日では、非弁提携問題への過剰な配慮から、正当なビジネスを支援する弁護士の提携関係さえ遮断されてしまうという、時代錯誤的な状況が見受けられます。
こうした壁を乗り越えることができれば、弁護士にとっても新しいビジネスの可能性が広がるはずです。
それにはまず、「法律がどのように実務で役立つのか」ということを経営者や企業の法務部、人事や経理を担当している実務家の皆さんに理解していただく必要があります。また弁護士をはじめとする専門家も、実務にもっと精通していかなければなりません。
そのための第一歩が、「税務調査士」という認定資格です。
――認定資格だけでなく、「税務調査管理士検定」というものも準備中とのことですが。
これは経営者や企業で働く実務家の方、あるいは税理士事務所の職員、FP、大学生などを対象にした税務調査実務についての検定試験です。遅くとも年内には具体的な形にしたいと思っています。
専門家の認定資格である「税務調査士」の質を高めていくためには、経営者や企業の実務家の方にもっと法律をご理解いただき、“専門家を見抜く眼”を培っていただくことが必要です。
それと同時に、この検定を通じて、「税務調査」において法律がどれだけ実用的で、役に立つものであるかということを実感していただきたいと思っています。
税務調査士(TP_I)とは?
税務調査士(TP_I)は、税理士、弁護士、公認会計士を対象に「税務調査についてのプロ中のプロ」の育成を目指す民間の認定資格制度。平成25年10月に第1期を開講した。平成27年6月で第4期を迎え、税理士・弁護士約380名の税務調査士が誕生している。第5期は、第4期認定講座にて収録した映像をインターネット配信する形で、平成27年9月より開講の予定。
鳥飼 重和
(とりかい・しげかず)
鳥飼総合法律事務所 代表弁護士
日本経済新聞社が2013年に調査した『企業が選ぶ弁護士ランキング』の税務部門で1位に選ばれた。現在は、経営・法務・税務等を実践的に活用することに焦点を当て、日本社会の復興のために必要な経営のインフラとしての士業・実務家の人材育成を目指す。平成25年10月から、納税者の視点から法律に基づく適正な税務調査の実現による税務実務全体の改革を目指した税理士・弁護士・公認会計士対象の「税務調査士」資格認定を開始。第1期開始以降、現在までに380名の税務調査士が生まれている。
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