歩くと脳の中で何が起きるか
誰でも朝の爽やかさは、経験していると思う。たとえ出勤のためとはいえ、朝の駅までの道は爽やかである。
それには理由がある。脳からセロトニンという物質が分泌されて、爽快感を生み出すのだが、規則正しい歩行運動はセロトニンの分泌をさらに促す。セロトニンは爽快感を生み出すだけでなく、不安感を消して、愛の感情も生み出す。小鳥のさえずりなどが愛らしく耳に響くのである。
このセロトニンは、時間が経過すると化学変化して、メラトニンという物質に変わるが、メラトニンは睡眠物質で知られる。朝の爽快感と夜の快眠は、同じ化学物質が脳内で変化したものによる。
このように脳内から分泌される各種の化学物質が気分や体調をコントロールしているのだが、それらの化学物質の分泌を促進するのが散歩である。もちろん西洋伝来の歩くことを楽しむ「散歩」、すなわち「外向きの散歩」でなければならない。
理由は簡単だ。目的地に向かうだけの歩行や苦行のような歩行では、脳内の化学物質の分泌の度合いが減るからである。
順を追って説明しよう。
散歩の効用は、歩きだして20分もすると体内に新鮮な血液が循環して、からだの隅々まで行き渡る。それこそ毛細血管にまで新鮮な血液が循環するが、その血液が運ぶのは新鮮な酸素である。
脳の前頭葉(オデコの部分で、大脳皮質の3分の1を占める)に新鮮な酸素が送り込まれると、注意力・思考・意欲などが13%も上昇する。これは実験で証明されていて、指の知覚さえも敏感になる。
逆に、脳梗塞などで前頭葉にダメージを受けた人は、意欲がなくなるので、リハビリさえしなくなってしまう。
注意力・思考・意欲のアップ+セロトニンが発想力を生む
ポンペに連れ出されて長崎の町を散歩した医学生たちの一変ぶり(プロムナード(=歩くことを楽しむ)を「散歩」と訳したのは勝海舟)は、これで説明がつく。散歩で前頭葉まで新鮮な血液が回り、13%も活性化した脳は、都市環境の衛生への注意力と、それを片づける意欲を引き出したのである。
それでは、どうして前頭葉へ新鮮な血液中の酸素が送り込まれると、13%も脳は活性化するのか?
それは脳の神経繊維が新鮮な血液で、活発に結びつくからで、今まで結びつくことのなかった脳細胞と脳細胞が神経線維の活性化で繋がり、新しい発想を生み出す。ポンペの医学生の場合、病気とゴミとが結びつかなかったのが、散歩で活性化した神経繊維によってしっかり結びつけられたのである。
ものごとに行き詰まったとき、気晴らしに30分も散歩をすれば、注意力・意欲・思考力が増大するので、行き詰った思考をリセットし、新しい神経繊維の結びつきが生じて、
「あっ、そうか!」
と問題の新しい解決法が浮かんだりする。規則正しい歩行がセロトニンの分泌を促し、爽快感を与え、不安感を消し、リラックスした中で注意力が上がるので、思わぬアイディアが生まれるわけである。
- ▼連載「老化を防ぎ、発想力もアップ! 脳が喜ぶ“知的”散歩術のススメ」
- 第6回 アウトドア・カルチャーのすすめ。能力を最大に引き出す散歩の仕方
- 第5回 ストレス疲れのときこそ散歩。歩けば脳がリセットされる
- 第4回 全身の筋肉は脳に直結していた!足からの刺激が「海馬」を活性化する
- 第3回 どうして散歩することが脳を活性化するのか?
- 第2回 プロムナード(=歩くことを楽しむ)を「散歩」と訳した勝海舟
- 第1回 脳トレよりもウォーキング! 人間は、考える“足”である