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老化を防ぎ、発想力もアップ! 脳が喜ぶ“知的”散歩術のススメ 第2回

プロムナード(=歩くことを楽しむ)を「散歩」と訳した
勝海舟

[ 古川愛哲<ふるかわ・あいてつ>(フリーライター)]

どうも気持ちが晴れない。ちょっとしたことですぐイライラする―。そんな人にぜひすすめたいのが「散歩」。たった30分のウォーキングが、気持ちをリセットし、脳の能力を20%以上も高めるのだ。

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日本人は「散歩」を知らなかった

 もはや忘れられているが、「散歩」は日本古来のものではない。江戸時代までの日本人は、無目的に歩くということはなかった。用事があって目的地へ足早に歩くのが日本人の歩き方である。

 ここに明白な証言がある。幕末、長崎の海軍伝習所において医学を教えたオランダ軍医ポンペの回想録で、

「決まった目的もなく楽しみに散歩することを日本人はほとんど知らない」
(『日本滞在見聞記』)

 と嘆いている。当時、ポンペの医学校に通う生徒たちは、外科や内科の授業には押しかけても、気候や環境と健康の関係などを教える「衛生学」となると誰も出席しない。視野が狭いのである。

 江戸時代の旅行記などを見ると、商人は「物価と出費」ばかり記し、寺社参りの人のものには「名所の記録」しかない。歩きながらも目的は絞られて、興味の視野は限られていた。

 そこでポンペは、コレラの流行を機に、学生たちに衛生学の重要さを説きながら長崎の町を散歩させた。歩きながらポンペは、

 「臭い溝、汚物の山や汚い塵の積もったところを見せて、これらのものが人類の衛生上恐るべき害をもたらす事を説いた」

 その効果は絶大だった。なぜなら、

 「その後、学生自身の手でこれらの有害物を除去することに熱心に努力するようになった。日本人のほうがわれわれオランダ人より進歩しているといわねばならない」

 と舌を巻いている。

 興味を持って歩くと、初めて物は見えてくるのであり、それは次の行動への動機となる。「気づき」は、散歩によって生じ、次の行動への「動機」を生むともいえる。このような好奇心を持っての散歩を、私は「外向きの散歩」と呼んでいる。

江戸城無血開城の陰に「散歩」あり

 この時、長崎海軍伝習所には勝海舟もいて、オランダ人教官たちの散歩に興味を持った。

 「なぜ、西洋人はぶらぶら歩きをするのか?」

 とオランダ海軍士官に尋ねると、士官は、

 「これをプロムナードという」

 と教えてくれた。「歩くことを楽しむこと」といった意味であり、さらに、こうも続けた。

 「時間さえあれば市中を歩き回って、何事となく見覚えておけ。いつか必ず用に立つ」

 歩くことを楽しみながら見聞を広める。そのプロムナードという言葉に海舟は「散歩」という言葉を充てた。これが日本語の「散歩」の起源である。日本語の「散歩」は、「外向きの散歩」として始まったともいえる。

 そもそもの「散歩」の語源は、漢方の劇薬を飲むときの服用法で、飲むとすぐに体内で循環・吸収するように、汗が流れるほど歩くことを指す。それが漢方の「散歩」である。

 海舟が「歩くことを楽しむ=プロムナード」を「散歩」と訳したのは、用もなく歩き、見聞を広めることは、劇薬がからだに効くような効果があると頭に閃いたからかもしれない。

 後に海舟は左遷された。暇になると、江戸中を「散歩」した。あらゆる階層の人々を見聞し、町火消の親分とも知り合って、「火消の親分」は「火付の親分」でもあることを知った。

 間もなく明治維新の戦争で、江戸城を武力攻撃しようとする西郷隆盛に、そんなことをしたら「江戸には四八組の火付の親分がいるから、江戸を火の海にする」と啖呵を切った。海舟は、散歩で「火消」は「火付」に転じることを知ったにちがいない。

 げに海舟の実践した「散歩」は、江戸城無血開城という驚くべき発想をもたらした。

▼連載「老化を防ぎ、発想力もアップ! 脳が喜ぶ“知的”散歩術のススメ」
第6回 アウトドア・カルチャーのすすめ。能力を最大に引き出す散歩の仕方
第5回 ストレス疲れのときこそ散歩。歩けば脳がリセットされる
第4回 全身の筋肉は脳に直結していた!足からの刺激が「海馬」を活性化する
第3回 どうして散歩することが脳を活性化するのか?
第1回 脳トレよりもウォーキング! 人間は、考える“足”である
著者 : 古川愛哲<ふるかわ・あいてつ>(フリーライター) 1949年、神奈川県に生まれる。日本大学芸術学部映画学科で映画理論を専攻。放送作家を経て、『やじうま大百科』(角川文庫)で雑学家に。「万年書生」と称し、東西の歴史や民俗学をはじめとする人文科学から科学技術史まで、幅広い好奇心を持ちながら「人間とは何か」を追求。著書に『「散歩学」のすすめ』(中公新書クラレ)、『江戸の歴史は大正時代にねじ曲げられた サムライと庶民365日の真実』(講談社プラスα新書)などがある。
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