いつもの通勤コース、散歩コースをちょっとはずれてみよう
脳細胞は成人に達すると死滅する一方といわれる。それでも 1,000億 もあるので、人間の思考力の低下には結びつかない。むしろ子ども時代の不必要な記憶や論理をリセットする現象とさえ考えられている。
それどころか成長する脳の器官が最近発見されて、脳科学者を驚かせた。
それは記憶中枢の海馬(かいば)のことで、ロンドン市民とタクシー運転手の脳の研究によって判明した。
ロンドンは 2万4,000 以上の道路が網の目のように張り巡らされており、それを全部覚えるには2年以上かかるといわれる。
一般市民の脳の画像に比べると、ロンドンのタクシー運転手の海馬は神経細胞の数が多く、それも 30 年以上のベテランとなると一般市民より 20% も増えていた。新しい場所にお客を運ぶたびに、新しい情報が海馬を活性化させて、記憶として大脳新皮質側頭葉に定着させてきたゆえといわれる。
新しい景色は、海馬の神経細胞を成長させて、記憶力を良くするのである。
この事実は、なるべく新しい場所を散歩したり、同じ場所でも反対側から歩いたりして、新しい風景に接することが、記憶中枢の海馬を成長させて、脳の能力を上げることを意味している。
出張や仕事先の訪問でも、少し散歩すると記憶中枢の海馬を中心とする脳の神経細胞は成長するのである。その後の商談でも、帰社後の報告でも、鮮明な記憶が甦るにちがいない。
誰でも一度は経験したはずである。忘れていた場所に立って、「あっ、ここ一度来たことがある」。そのとき、その場所での記憶がドッと溢れでる。これは海馬の作用である。
散歩しながらの「会話」は新しい発想の宝庫!
たとえ通勤電車で通う人でも、途中下車してみれば、新しい景色を散歩することになり、記憶中枢の海馬は成長する。
そこで最強の「外向きの散歩」の方法を提案したい。
人間の動く部分は、大きく分けて3つある。「足」と「手」、それに「口」である。それぞれに筋肉がついていて、感覚器からの信号が脳を刺激する。
脳に届く刺激と情報量を 100 とすると、「足」と「手」からそれぞれ 25% ずつ、「口」からは 50% になる。これらの筋肉からの刺激や情報は、脳の前頭葉の後ろの「体性感覚野」というベルト状の部分で処理されるが、同時に刺激と情報は脳の隅々にも送られて脳を活性化する。
「内向きの散歩」では、黙々と歩くので、足と手からの 50% の刺激と情報しか脳に届かない。
「外向きの散歩」の場合は、1人とは限らない。連れがあれば最高である。連れとともに語りながら、腹が減ったら食事もするだろう。口からの刺激と情報の 50% も加わって、脳は 100% 活性化するのである。
しかも人間は、親しい人なら脳内に鎮静剤と同じ効果の化学物質が分泌するので、きわめてリラックスして、今まで気づかなかったことに気づき、それを話題に活性化された神経繊維が思わぬ脳細胞と脳細胞をつなげて、新鮮な発想をもたらせたりもする。
恋人が相手なら、覚醒剤系の化学物質が放出されて、ハイな気分で、これまた異性の独特のものの見方を知って、活性化した神経繊維が新しい神経細胞の繋がりを作って、互いのモノの考え方を豊かにしてくれる。
子ども連れの若いパパやママなどは、子どもの着目することに驚いて、教えられることが多いのは、毎度、若い夫婦らから聞かされるとおりである。と同時に、そういう子どもは、足や手や口からの刺激で脳が活性化されて、豊かな人物に育つ。
とにもかくにも連れ立って散歩してみることである。散歩中の会話は 100% 脳が活性化されているので、驚くほどの発想を引き出す。そればかりでなく「注意力」も「意欲」も刺激されているので、様々な疑問が湧き、それを調べる意欲も湧く。
快感中枢の扁桃核を刺激されての疑問だから、調べることも快感となり、読書など無縁な人も、本を開くのが苦ではなくなる。
「外向きの散歩」を私がアウトドア・カルチャーと呼ぶのは、そのためである。
冒頭にも書いたが、脳は人体のカロリーの 20% を消費する。カロリー過剰な現代人には、「外向きの散歩」はメタボリック症候群を防ぐのにも資するのである。