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Q&Aでわかる!労基署対応の実務と予防策 第11回(最終回)

残業代さえ払えば、何時間でも残業をさせることができる?

[ 川久保 皆実<かわくぼ・みなみ>(弁護士(鳥飼総合法律事務所))]

ベテランの総務担当者でも、「労基署の調査を経験したことがない」という方は少なくないでしょう。しかし、滅多にないからといって油断していると、いざ調査が入った時に取り返しのつかない事態に陥りかねません。本連載では、労基署の調査への適切な対応法と労務トラブルを防ぐ体制作りについてQ&A形式で解説していきます。

納期を目前に控え、突然の休職者が出て人手が足りません。残業代さえ払えば、何時間でも残業をさせることができるのでしょうか?

roukisho-a36協定に記載された上限時間を超えて残業させることはできませんし、その上限時間をどのように設定するかについては行政による規制がかかります。

従業員にさせることができる残業時間には「上限」がある!

 本連載のこれまでの記事で、残業代をしっかりと払わないと、労働基準監督署による臨検監督や、従業員からの民事責任追及で痛い目にあうということはわかっていただけたかと思います。

 それでは、残業代さえ払っておけば、何時間でも残業をさせることができるのでしょうか?

 答えは「No」です。残業代を支払えば、何時間でも残業をさせることができるという訳ではありません。

 そもそも、残業(時間外労働)を適法に行わせるためには、非常事由による場合を除き、以下の2つの要件を満たしている必要があります。

  • 事業場の労働者の過半数代表との間で労使協定(いわゆる36協定)を締結し、その協定書を労働基準監督署に届け出ること
  • 就業規則等に時間外労働義務が定められていること

 残業(時間外労働)をさせる前提として、まず36協定を締結し、労基署に届け出る必要があります。

 36協定には時間外労働時間の上限を記載しなければならないのですが、この上限については、「時間外労働の限度に関する基準」(平成10年労働省告示第154号)に適合したものとなるようにしなければならないという行政による規制がかかっています(※)。

■「時間外労働の限度に関する基準」に定められている時間外労働の限度時間
  一般の労働者の場合 対象期間が3か月を超える
1年単位の変形労働時間制
の対象者の場合
1週間 15時間 14時間
2週間 27時間 25時間
4週間 43時間 40時間
1か月 45時間 42時間
2か月 81時間 75時間
3か月 120時間 110時間
1年間 360時間 320時間
※以下の業種については、例外的に「時間外労働の限度に関する基準」の適用除外となりますので、ご注意ください。

・工作物の建設等の事業
・自動車の運転の業務
・新技術、新商品等の研究開発の業務
・厚生労働省労働基準局長が指定する事業または業務(ただし、1 年間の限度時間は適用されます)

臨時的に時間外労働時間の上限を延ばすことも可能

 ただし、納期ひっ迫などにより、臨時的に上記の限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が予想される場合には、36協定に「特別条項」を設けることにより、1年の半分を超えない期間について、時間外労働時間を延長することができます。

 特別条項によって時間外労働時間をどれくらい延長できるかについては、法律上の制限はありません。

 しかし、月80時間を超える時間外労働を可能にするような特別条項がある事業場については、「過重労働による健康障害等のおそれがある」として労働基準監督署の定期監督の対象となりやすいので注意が必要です。

 特に最近では、2015年4月に東京労働局と大阪労働局に過重労働撲滅特別対策班(通称「かとく」)が新設され、靴の小売店チェーン運営会社について従業員に違法な長時間労働をさせたことを理由に書類送検を行うなど、長時間労働に対する行政のチェックが大変厳しくなっています。

 また、万一過労死・過労自殺が発生してしまった場合の損害賠償請求との関係でも、従業員に月80時間を超える時間外労働をさせるのは、会社にとって非常にリスキーです。

 したがって、36協定の特別条項に定める時間外労働時間の上限は月80時間以下(できれば月60時間以下)とし、その上限をしっかりと遵守した労務管理を行うということが、会社を守ることにつながるといえます。

 本連載をきっかけに、ひとりでも多くの方に、企業の労務管理の重要性に気づいていただけることを願い、この連載を終えたいと思います。

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▼連載「Q&Aでわかる!労基署対応の実務と予防策」
著者 : 川久保 皆実<かわくぼ・みなみ>(弁護士(鳥飼総合法律事務所)) 東京大学法学部卒業、東京大学大学院法学政治学研究科修了。ITベンチャーでの企画営業職を経て弁護士となる。専門は人事・労務であり、特に紛争予防・労基署対応・テレワークに力を入れている。
【公式HP】https://kawakubo373.com/
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