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会社を“オンリーワン企業”にする決算書の作り方 第10回(最終回)

経営分析は会社の“健康診断”! 問題を「数字」で把握し、改善策を提示する

[ 青山 恒夫<あおやま・つねお>(税理士、公認会計士)]

「管理会計」という言葉をまったく知らないという経営者は少ないかもしれません。しかし、「管理会計」を実際の経営に役立てている会社がどれだけあるでしょうか。例えば、「管理会計」を使って決算書の数字を組み直すと、あなたの会社が「オンリーワン企業」になるためのロードマップが見えてきます。

経営分析は会社の健康診断!

企業業績は“定量的に”把握する

 多くの企業では、売上高や利益をより向上させるために、月次ベースで各部門の責任者らが一堂に会し、経営会議等の意思決定会議を開催しています。
 そうした会議では、企業業績を巡って、それぞれの立場からいろんな意見が出されるものと思われます。

 例えば

「製造は、お客様の便宜のために、もっと短いリードタイムで生産して欲しい」
「営業は、昔ながらの販売手法に固執しており、現在の顧客ニーズにマッチしていない」
「企画は、自分たちがこれまでやってきた手慣れた製品しか提案してこない」

 ——などなど。

 それぞれの発言は、各部門における現場の状態を反映した的確な意見かもしれません。ですがそれだけでは、企業業績の改善につなげることは難しいと考えます。

 つまり、そうした感想ベースもしくは数字に基づかない“定性的な”意見では、

「現状はどの程度で、どれくらいのレベルまで改善したら良いのか?」

 さらに言えば、

「どのレベルにまで到達すれば、満足できるのか?」

 という“ゴール”が明確にならないからです。

 目指すべきゴールを明確にするには、数字(金額や重量など)で客観的に現状のレベル等を提示する必要があります。

 よく「測定できないものは評価できない」と言われます。また、ダイエットするのに最も効果的な方法は、「毎日体重計に乗り、現在の体重とそれまでの体重の増減推移を把握することだ」という話もよく耳にされると思います。

経営分析は「企業の健康診断」。数値を測定し、改善策を提示する

 そうした定量的に企業の状態を把握する手法の代表的なものが、経営分析あるいは財務分析です。

 経営分析は、健康診断によく似ています。健康診断では体重、血圧、血糖値、尿酸値等を測定して、疾患の有無や生活習慣の改善ポイントが提示され、病気予防や健康促進の重要な判断資料となります。
 この健康診断を企業にあてはめたものが、経営分析であると考えていただければけっこうです。

 経営分析を行う目的は次の通りです。

① さまざまな指標で企業の現状を数値化・比率化する
② 算出した指標を他企業や業界統計と比較することにより、自社の問題点を把握する
③ 算出した指標を自社の現在までの推移をとることで、自社状況の推移を把握する
④ 以上を踏まえて、将来の成長を実現するためにとるべき施策を検討、決定する

 経営分析は、基本的には(月次)決算書の数字を用いて行います。主な経営分析の手法には次のものがあります。

① 収益性の分析
 企業に「儲ける力がどれだけあるか」を分析する手法です。代表的な指標が売上高利益率です。
 売上高利益率を〈他競合企業との比較〉や〈自社の過去からの推移〉で把握することにより、自社の儲ける力のレベルと傾向を把握し、改善施策を検討し、実施していきます。

② 効率性の分析
  企業が「どれだけ資産を効率的に活用しているか」を分析する手法です。代表的な指標が資産回転率です。
 資産回転率では、具体的には企業が〈どれだけ少ない資産で売上高を計上できるか〉を分析します。そのため、遊休不動産、販売困難な商品、回収不能な売掛金を多く抱えれば抱えるほど、資産回転率は悪化します。

 資産回転率の数字が、そうした「お金にならない資産」を早く処分してキャッシュに替えてください、とアラームを鳴らしているわけです。

③ 安全性の分析
 企業が「どれだけ倒産する可能性があるか」を分析する手法です。代表的な指標が自己資本比率です。
 自己資本比率とは、簡単にいえば〈貸借対照表の負債・純資産合計額に対する自己資本の割合〉のことです。

 自己資本は、株主が拠出した資本金が基になっていますので、返済する義務はありません。こうした〈返済する義務がない自己資本が、全体の借入金等のうちどのくらいを占めているか〉を示す指標が自己資本比率と言えます。

 具体的に言うと、自己資本比率が低く借入金割合が高い企業は、業績が悪化して資金が減少したときにも多額の借入金返済と利息の支払いが求められ、より業績が悪化してしまうということです。

 経営分析の手法には、以上の他に生産性分析成長性分析損益分岐点分析キャッシュフロー分析などがあります。

決算書プラスαのデータが経営分析の実効性を高める

 先に述べたように、経営分析は決算書の数字を用いて行います。しかし、決算書だけでは、まだデータ(情報)として充分ではありません。
 決算書以外のデータも併せて活用し、経営分析をすることが、じつはとても大事なのです。

 例えば、2か月先の受注残がおおよそわかるのなら、受注残の推移を把握することで自社製品等の売れ行きが予測できます。そうすれば、決算書のデータを使うよりも早く売上高が分析でき、そのぶん迅速に改善措置が打てます。

 また、一般消費者に商品・サービス等を売る企業には、消費者からさまざまなクレームが寄せられると思います。そこで、寄せられたクレームの内容を分析し、その要因別の推移等を追ってクレーム原因の特定・改善をすることができれば、顧客満足度の向上、ひいては売上の増加が見込めるでしょう。

 決算書以外に、自社の業績に大きく関係してくる要因・データにはどんなものがあるか? ぜひ皆さんの企業でも、そうしたデータを経営分析項目に取り入れて、月次経営会議等を実施していただきたいと思います。

 さて、今回でこの連載は終了します。

 この連載を通じ、「決算書は経営の役に立つ!」「管理会計の手法を経営に活かしたい!」と思う経営者の方、実務家の方が1人でも増えていただければ幸せです。そして、ナンバーワンではなく“オンリーワン企業”を目指す中小企業の方々のために、少しでもお役に立つことを願っています。

 これまでお読みいただき、ありがとうございました。

▼連載「会社を“オンリーワン企業”にする決算書の作り方」
著者 : 青山 恒夫<あおやま・つねお>(税理士、公認会計士) 横浜国立大学経営学部会計学科卒業後、中央監査法人に入所。その後独立し、青山公認会計士事務所を設立。会計士として、監査法人時代には株式上場支援を、独立後は中小企業の税務顧問としてさまざまな課題解決を支援。会計(財務・管理)・税務セミナーの講師としても活躍している。
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