臨検監督は、原則として事前連絡なく抜き打ちで行われます。拒否した場合は、30万円以下の罰金を科されることがあります。さらに、場合によっては、労働基準法違反の罪で強制捜査を受ける可能性もあります。
臨検監督は、原則として抜き打ちで行われる
労働基準監督署の臨検監督は、事業主等が、事前に事実や関係証拠を隠したり、でっち上げたりするのを防ぐため、原則として、事前に何の予告もなく抜き打ちで行われます。
しかし、突然アポ無しでやって来るなんて、会社としては「いきなり来られても困るよ!」というのが本音だと思います。実際に、労働基準監督官を事業場内に入れずに、強引に帰らせてしまうケースもあるようです。
そのように臨検監督を拒否した場合、会社にはどんなリスクが生じるのでしょうか?
臨検監督を拒否すると、30万円以下の罰金を科される恐れが
労働基準監督官には、
- 事業場等に臨検し、
- 帳簿及び書類の提出を求めたり、
- 使用者もしくは労働者に対して尋問を行ったりする
権限(=臨検監督を行う権限)が認められています(労働基準法第101条第1項)。
この権限はあくまで“行政上の権限”ですので、仮に、事業場が立入りを拒否したり、求められた書類の提出を拒んだり、質問に回答しなかったとしても、労働基準監督官が強制的に事業場に立ち入ったり、書類等を捜索したりすることはできません。
しかしながら、労働基準監督官に対してそのような対応をした場合には、以下の条文に違反するとして、30 万円以下の罰金を科されることがあります(労働基準法第120条第4号)。
次の各号の一に該当する者は、30万円以下の罰金に処する。
(中略)
4 第101条(第100条第3項において準用する場合を含む。)の規定による労働基準監督官又は女性主管局長若しくはその指定する所属官吏の臨検を拒み、妨げ、若しくは忌避し、その尋問に対して陳述をせず、若しくは虚偽の陳述をし、帳簿書類の提出をせず、又は虚偽の記載をした帳簿書類の提出をした者【労働基準法 第120条】
労働基準法違反の容疑で強制捜査を受ける可能性も!
「なんだ、30万円の罰金さえ覚悟すれば、臨検監督を拒否できるのか」
そう思った方もいらっしゃるかもしれませんが、そうは問屋がおろしません。
労働基準監督官には、臨検監督を行う行政上の権限とは別に、労働基準法違反の罪について、司法警察官と同様に犯罪捜査をする権限が与えられています(労働基準法第102条)。
もし、労働基準監督官がこの権限を行使し、裁判官から捜索差押許可状の発付を受けて事業場に強制捜査に入った場合には、それを拒むことはできず、強制的に立ち入りや捜索、差押え等(いわゆるガサ入れ)が行われることとなります。
ですので、臨検監督に入られた場合には、最初から真摯に対応し、事を荒立てないことが得策といえます。
どうしても対応ができないときは、日程の延期をお願いしよう
とはいえ、突然臨検監督に入られた場合には、書類の保管場所を把握し、労働基準監督官に状況を説明できる管理者が不在である等、臨検監督に対応することが実質的に難しい場合もありますよね。
そのような場合には、労働基準監督官に対して具体的に事情を説明し、日程の延期をお願いしてみるとよいでしょう。
延期の可否は、最終的には労働基準監督官の判断によることになりますが、その日に臨検監督の目的を達成できない合理的な事情がある場合には、延期に応じてくれる可能性があります。
なお、この場合、延期を求める理由について嘘をつくと、前述の労働基準法第120条第4号違反となりますので、十分ご注意ください。
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